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現代社会における咬合異常

なぜ咬合異常が多いのか?

現代において歯並びの異常はほとんどの人々に認められます。発掘された古代の骨から推定すると、現在の歯並びの異常の発現率はわずか数百年前よりも数倍も高いと考えられます。いわゆる乱杭歯(乱ぐい歯)等、歯並びの異常は比較的最近になるまで珍しいものでした。

化石は、現代人の歯並びに影響を与えている数千年にわたる進化の方向、すなわち個々の歯の大きさの減少、歯数の減少、上下顎骨の大きさの減少などを物語っています。たとえば過去少なくとも十万年にわたって,前歯,および臼歯の大きさは確実に小さくなってきています。

現在では、第三大臼歯、第二小臼歯や側切歯は先天欠如していることがあります。そのことから、これらの歯が退化してきている可能性が考えられます。原始人と比較して現代人の顎骨はきわめて未発達です。 顎骨の大きさがどんどん縮小し、それが歯の大きさや数の減少とうまく対応しなければ、歯並びの異常が起こることが考えられます。原始的な農耕生活から現代的な社会へ移行したことと平行して歯並びの異常が生じているように思われます。

現在では、原始時代と比べてより軟らかいものを食べることで歯や顎をあまり使わなくなったことにより歯並びの異常が引き起こされたと考えることもできます。原始時代においては,顎骨と歯の機能が優れていなければ生きていくことができませんでした。調理されていない肉や草木などを食べるためには、顎や歯がうまく機能しなければいけませんでした。たとえば、オーストラリア原住民は調理されていないカンガルーの肉を食べる時に、上体のすべての筋肉を使います。現代の人々は文明化に伴って顎や歯を働かせる必要性が減少していることがわかります。

では、歯並びが悪い場合、何が問題なのでしょうか。
矯正歯科治療を受ける理由について考えてみましょう。

不正咬合による障害

1)咀嚼機能障害

食事をするために咀嚼するということは、人間が生きていくうえで必要な基本的機能です。不正咬合で噛み合わせが悪いと、咀嚼機能が十分に営めません。不正咬合のなかでも、下顎前突、開咬では特に咀嚼機能が低下します。

2)発音障害

不正咬合によって、正常な発音ができない場合があります。例えば、上下顎の前歯がうまく咬み合わなかったり、上下顎の前歯部の間にすき間がある場合には、サ行の発音がうまくできません。また、強度の上顎前突、下顎前突では唇を閉じることが難しいため、p、b、mの発音がしにくくなります。さらに強度の下顎前突では、f、vといった音の発音に障害がみられます。

3)顎骨の発育に及ぼす障害

顎骨の発育は、遺伝的要因・環境的要因の影響を受けます。不正咬合は、環境的要因に当影響を及ぼすことがあります。たとえば、前歯部の噛み合わせが深い過蓋咬合では、下顎の前方成長を抑えてしまう可能性があります。

4)虫歯発生の誘因

歯並びが悪いと食物が歯間に溜まりやすくなるとともに、顎の動きで自然に除去されることもなくなります。また、歯ブラシによっても食物は除去されにくい環境になります。すなわち、不正咬合によってプラークコントロールがしにくくなり、虫歯になりやすくなります。

5)歯周病の誘因

虫歯発生の誘因の場合と同様に、歯間に溜まった食物は歯肉炎を引き起こします。また、不正咬合により、歯に加わる力のアンバランスが生じて歯槽骨の吸収が起こることがあります。

6)外傷の誘因

不正咬合により歯列から外れている歯があると、軽い打撲によっても唇や頬に怪我をすることがあります。また、上顎の前歯が前方へ突出している場合には、衝突により上顎の前歯が破切することが多くなります。

7)詰めものや被せものを困難にする

歯科治療を必要とする場合、歯が傾斜していたり、歯列から外れている場合があると理想的な治療が困難になる場合があります。

8)顎関節症の誘因

顎関節は、上下顎を噛み合わせた場合にも、下顎の安静時にもバランスの取れた位置にあることが理想です。しかし、不正咬合によって咬合時に顎が側方へ偏位したり、噛み合わせが深い場合には、このバランスがくずれて顎関節症を誘発することがあります。

矯正治療の目的と意義

歯並びが原因で起こるいろいろな不具合、たとえば「見た目の悪さ」、「噛みにくさ、喋りにくさ」、「虫歯、歯周病」などを軽減あるいは治癒させるためには、どのようなことをすればよいのか、またこれらを未然に防ぐにはどのようにすればよいのかを提案し、実行するのが歯科矯正治療です。

歯科矯正治療では、このような不具合で悩んでいる方を、解決するのが最終目的です。不正咬合が原因で起こっている悩みを外面的にも、内面的にも改善するのが歯科矯正治療の目的であると言えます。